01 代表者の破産手続(管財事件と同時廃止事件)
会社(法人)に破産手続開始決定が出ると、代表者は会社(法人)の代表権を失います。
多くの場合、代表者は、会社の金融債務などの連帯保証人になっているため会社の倒産に伴って、代表者もまた支払不能状態に陥ります。
しかし、会社(法人)が破産したからと言って、当然に(自動的に)、代表者が破産する訳ではありません。
支払不能状態となって代表者が、破産手続を選択するのであれば、代表者も、個人の破産手続開始の申立てをする必要があります。
代表者の破産手続は、財産の多少にかかわらず、原則として、会社(法人)の場合と同様、「破産管財人が選任され、破産管財人が、破産者(代表者)の財産を換価し、債権者に配当する」という手続(これを「管財事件」と言います)で行われます。
この場合の手続の流れは、基本的に会社(法人)の破産事件と同じです。
一方、ケースとしては少ないですが、代表者の破産手続で破産管財人が選任されない場合もあります。こちらを同時廃止事件といい、破産管財人が選任されずに、破産手続開始決定と同時に破産手続が終了するという簡易な手続で行われます。
- (1) 一般的な「同時廃止事件になるための原則的な要件」※1を満たすこと。
- (2) 債権者への意向聴取などにより、否認権行使等がないことが確認され、確定申告書、決算報告書等により資産の内容が明確になっていること。
- (3) 会社の破産申立がされていない場合は、会社の資産の資料が提出され、会社の資産の清算状況や会社からの借入金がないか(会社資産の代表者への流入がないこと)などが確認されていること。
※1 同時廃止事件になるための原則的な要件
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(1)
現金と普通預貯金以外の財産(例えば、不動産、定期預金、保険等)について、財産項目ごとの合計額が20万円未満であること。
(例えば「保険が2本合わせて25万円ある」と言う場合は✕) - (2) 現金と普通預貯金の合計額が50万円未満であること
(注)(1)(2)の両方を満たす必要があります。
(注)この要件を満たす場合でも、
・財産状態が不明瞭である。
・回収不能とされているがその客観的裏付けのない債権がある。
・否認権行使の対象となり得る行為がある。
・免責不許可事由が認められる。
などの事情がある場合は、裁判所は破産管財人による調査が必要と考えますので、同時廃止事件にすることは認められず、(破産管財人が選任される)管財事件となります。
02 代表者の破産の費用について
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1 裁判所に納付する費用等(名古屋地裁本庁の場合)
(1) 収入印紙 1,500円 (2) 郵便切手 5,490円
+債権者20名超過は追加(3) 予納金 個人40万円~
※2 負債総額1億円以上は下記別表のとおり(4) 官報公告費用 1万5,499円 負債総額 予納金額 1億円以上 60万円 3億円以上 70万円 10億円以上30億円未満 150万円 -
●予納金は、破産管財人の報酬や、管財事務に必要な費用に充てるための費用として、予め裁判所に納める費用です。
予納金の額は、破産手続きの申立てをした後に、裁判所が、代表者の資産と負債の具体的な状況を精査してから決定するので、申立ての準備段階では「想定する」しかありません。 - ●裁判所は、予納金の納付をしない限り、破産手続開始決定を出してくれません。
(注)予納金の額は、上記の金額を一応の基準として裁判所が決定しますが、対象者の財産等の状況により増減があります。
(注)名古屋地裁では少額予納管財という類型(手続)があります。
少額予納管財事件で進める場合の予納金は、会社と同時申立ての場合は「30万円+官報広告費用」、代表者だけの申立ての場合は「20万円+官報広告費用」となります。(1) 収入印紙 1,500円 (2) 郵便切手 84円 ×(債権者数×2+10)
10円×5 ※3(3) 予納金 1万1,859円 ※3 愛知県弁護士会所属の弁護士が、書類の受領を裁判所で行うことを希望するときは、「84円✕債権者数」となります。
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●予納金は、破産管財人の報酬や、管財事務に必要な費用に充てるための費用として、予め裁判所に納める費用です。
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2 弁護士費用
負債総額 弁護士費用(税別) 1億円未満 40万円~ 1億円以上 60万円~ - ●弁護士費用(弁護士報酬)は、受任から破産手続が完全に終了するまでの間の弁護士報酬です。 ですから、破産手続が終了し免責許可決定を得た時に、あらためて弁護士費用(弁護士報酬)をお支払いいただく必要はありません。
- ●破産の方針を決めるにあたって、相談者の事情をしっかり伺って、必要となる弁護士費用(弁護士報酬)の金額をご説明いたします。
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3 その他の実費
- ●申立て準備に必要となる住民票や不動産登記の登記情報の取得費
- ●その他
03 代表者の破産費用の捻出方法について
名古屋地裁は、会社(法人)の資産を代表者の破産申立費用に充てることを原則として認めていません。
代表者が自分で費用を調達する必要があります。
しかし、その場合でも、破産することを隠して他人からお金を借りたり、個人の財産を不当に廉価で売却すると、後で問題になることがあります。
どうやって破産手続費用を捻出するか、その方法とタイミング等については、丁寧にアドバイスいたしますので、森法律事務所にご相談ください。
04 自由財産について
個人の破産手続では、差押禁止財産等は、自由財産といって、債権者への配当原資となる破産財団に組み込まれず、破産者(代表者個人)の手元に残ることとなります。
また、「自由財産拡張の申立て」をすることで、99万円までの財産を自由財産として保持することが認められます。
自由財産拡張の制度の運用基準は、各裁判所によってまちまちです。
名古屋地裁の運用基準では、現金を含め99万円の範囲内の財産で、かつ(1)~(5)の財産が、20万円以下の場合は原則として自由財産として認め、20万円を超える場合は、破産者の生活状況や収入見込みに照らして拡張を認めるのが相当か否かを判断することとされています。
- (1) 預貯金
- (2) 生命保険解約返戻金
- (3) 自動車
- (4) 居住用家屋の敷金債権
- (5) 退職金債権
なお、自由財産拡張の申立ては、個人の破産手続開始申立てをする際に同時に申し立てる運用です。